相続Q&A

「[2]遺産分割に関する改正」

質問内容

Q2:遺産分割前に被相続人の預貯金の払戻しが認められるのはどのような場合か教えてください。

回答

1 制度の概要
(1)家庭裁判所の判断を経ずに払い戻す方法
 改正法第909条の2は以下のとおり規定しています。

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第909条の2 各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費,平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については,単独でその権利を行使することができる。この場合において,当該権利の行使をした預貯金債権については,当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
 
 これにより,遺産に属する預貯金債権の相続開始時の残高に3分の1を掛け,その金額にさらに各共同相続人の法定相続分(民法第900条,901条に定められています。)を掛けた金額について,各共同相続人が単独で払戻をすることができます。
例えば,相続人が被相続人の子2人で,遺産は600万円の預貯金のみであった場合,各相続人が単独で払い戻すことが認められる金額は以下のとおりとなります。
600万円×3分の1×2分の1(法定相続分)=100万円
 但し,法務省令により,上限額は150万円と定められていますので,上記の方法で算出した金額が150万円を上回っていても,払戻が認められるのは150万円ということになります。

(2)家庭裁判所の判断を経て仮払いを得る方法
 家事事件手続法第200条第3項は,以下のとおり規定しています。

(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
第200条 (第1,2項略)
3 前項に規定するもののほか,家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは,その申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし,他の共同相続人の利益を害するときは,この限りでない。

 上記(1)で述べたとおり,家庭裁判所の判断を経ない方法で預貯金の払戻しが認められるのは,150万円が上限ですが,必要のある場合には,家庭裁判所の判断により,他の共同相続人を害さない限度で預貯金の仮払いが認められます。上記条文は必要性について,「相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁」を挙げていますが,これらに限定されるわけではなく,必要性の判断は家庭裁判所の裁量にゆだねられています。

2 留意点
(1)上記(1)の払戻しは,相続財産の一部の先渡しとみなされますので,遺産分割協議の際,払い戻した金額は,法定相続分から差し引かれることになります。
(2)上記(2)による払戻しは,あくまで仮払いなので,遺産分割において仮払いされた金額は考慮されません。
(3)両規定とも,2019年(令和元年)7月1日施行ですが,上記(1)の払戻し制度については,施行日前に開始した相続についても適用されます。これに対し,上記(2)の仮払い制度については明文の規定はありませんが,法務省は,施行日前に開始した相続には適用しないとの見解を示しています。
  
3 改正の理由
 最高裁は,被相続人の有していた預貯金は遺産分割の対象となるから,遺産分割未了の状態で遺産に属する預貯金債権を単独で払い戻したり解約したりすることはできないとしていました(最決平成28年12月19日)。しかし,この考え方を前提とすると,葬儀費用や相続人の当面の生活費等のために死亡直後にどうしても遺産に属する預貯金をこれに充てる必要がある場合に,各相続人が単独で払い戻すことがとできないとすると不都合が生じます。
 そこで,改正法は,当面必要と考えられる金額についての払戻しを認めるとともに,各相続人間の公平を図るべく,遺産に属する預貯金に一定割合を掛けた金額について,150万円を上限に各共同相続人単独での預貯金の払戻しを認めました。
 そして,上記の金額では足りないという事情がある場合には,家庭裁判所の判断を経て,他の相続人を害さない限度で仮払いを認めることとしました。

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