相続Q&A

「[2]遺産分割に関する改正」

質問内容

Q5:遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合,「遺産の範囲」はどうなるのかを教えてください。

回答

1 制度の概要
 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人の全員が同意すれば,その処分された財産も「遺産」に含めて,分割手続を行うことができます(改正民法第906条の2第1項)。
 処分した者が共同相続人の一人である場合には,その共同相続人の同意は不要です(同第2項)。処分した者が共同相続人でない場合も,その者の同意は当然に不要です(同第1項)。

2 留意点
(1)遺産分割の対象となる「遺産」は,原則として,遺産分割のときに現存している財産に限られます。従って,遺産分割前に財産が処分された場合,その処分された財産は,原則として,分割の対象になりません。
(2)共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合に,原則どおり,その処分した財産を含めずに遺産分割を行うと,結果的に,処分をした共同相続人が得をすることになります。
 具体的に,相続人が長男と次男の2人で,被相続人の死亡時の遺産としては預金1000万円が存在したが,遺産分割前に長男が500万円を無断で払い戻してしまった,という例で考えてみます。
 この場合,遺産分割の対象となる「遺産」は,原則として,遺産分割のときに現存する預金500万円となり,これを法定相続分に従って分割すると,長男と次男が各250万円を取得することになります。
 次男は長男に対して,無断で払い戻した500万円のうち,次男の法定相続分に相当する250万円の不当利得返還請求を行うことができますが,長男が無資力であれば回収できないリスクがあります。
(3)このようなリスクを避けるために,次男としては,遺産分割の協議・調停・審判において,長男が処分した預金500万円を「遺産」に含め,預金1000万円について遺産分割を求めることができます。その際,処分をした長男の同意は不要です。
(4)処分した者が共同相続人以外の第三者である場合も,その処分された財産を「遺産」に含めて分割手続を行うことは可能です。
 この場合,処分された財産を「遺産」に含めなくても,共同相続人間の取得割合に影響はありません。
 もっとも,処分した第三者に対する損害賠償請求権や,処分された財産に関する保険金請求権などを分割対象に含めることができる,というメリットがあります。

3 改正の理由
 改正前の実務においても,上記2(2)のような不合理な結果を回避するため,①共同相続人全員の同意がある場合には,遺産分割前に処分された財産も「遺産」に含めて手続を行ったり,②預金が払い戻された場合も,現金が現存しているものとして「遺産」に含めたり,③預金を払い戻した相続人に「特別受益」があると認定したりして,個別具体的に妥当な解決が図られてきました。
 本改正によって,処分をした共同相続人の同意がなくても,他の共同相続人の同意のみで,その処分された財産を「遺産」に含めて手続ができるようになり,これまで以上に妥当な解決を図りやすくなったと言えます。

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