「[3]遺言制度に関する改正」
質問内容
Q14:いわゆる「相続させる旨の遺言」における遺言執行者の権限は,どのように定められましたか?
回答
1 いわゆる「相続させる旨の遺言」とはこれは,特定の財産を共同相続人のうち特定の相続人に承継させる旨を記載した遺言をいい,改正民法ではこのような遺言を「特定財産承継遺言」と呼んでいます(改正民法1014条2項)。
特定財産承継遺言は,①遺産分割協議や家庭裁判所の審判を経ず,指定された相続人が遺産を確定的に取得するとともに,②特定財産が不動産の場合は,指定された相続人が単独で登記申請が可能であり,③指定された相続人は登記なくして第三者に対抗できるとされていました。
このため,判例は,被相続人名義の不動産について特定財産承継遺言がなされた場合,遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないと判断していました(最一判平成11年12月16日)。
2 対抗要件の具備
改正民法899条の2第1項は,取引安全の見地から,特定財産承継遺言の場合でも,法定相続分を超える部分の承継については,対抗要件なくして第三者に対して権利の取得を対抗できないとする対抗要件主義を採用しました。
そこで,遺言執行者においても,遺言内容の実現のため,指定された相続人に対抗要件を具備させることができる権限が付与されたということです。
もっとも,指定された相続人自身が単独で登記申請を行えることは,改正前と変わっていません。
3 預貯金の払戻及び解約
同様に,特定財産承継遺言における特定財産が預貯金である場合,遺言執行者はその払戻や解約権限を付与されることになりました。
改正前の民法では,遺言執行者が預貯金の払戻や解約ができるか明確ではなかったため,遺言執行者から払戻請求や解約請求を受けた金融機関が遺言の解釈を争うなどしてトラブルになることがありました。
しかし,遺言執行者を定めたうえ,預貯金を特定の相続人に承継させる内容の遺言を作成した遺言者としては,通常,預貯金の払戻等の権限を遺言執行者に付与する意思があったものと考えられます。
そこで,遺言に別段の意思表示がない限り,遺言執行者に預貯金の払戻や解約権限があることが明文化され,遺言内容の実現に資することが可能となりました。
なお,改正民法1014条2項は,預貯金以外の金融商品に言及していませんが,金融商品は値動きのあるものなど多種多様であることから,遺言執行者に画一的に解約権等を付与しなかったものです。従って,預貯金以外の金融商品については,遺言の解釈によって,遺言執行者に解約権限等が認められるか否かを判断することになります。