相続Q&A

「[4]遺留分制度に関する改正」

質問内容

Q3:遺留分や遺留分侵害額の算定方法に関する見直しについて教えてください。

回答

1 遺留分の算定方法に関する見直し
(1)①遺留分の算定方法の明確化
   ①遺留分の算定方法の明確化に対応する改正民法の条文は次のとおりです。

(遺留分の帰属及びその割合)
第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
 一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
 二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2 相続人が数人ある場合には,前項各号に定める割合は,これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

(遺留分を算定するための財産の価額)
第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
 
 改正民法は,遺留分の算定方法を以下の条文で整理しました。
    
 →遺留分を算定するための財産額(改正民法第1043条)
   ×2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1,改正民法第1042条第1項)
   ×遺留分権利者の法定相続分(改正民法第1042条第2項)
   
 上記算定方法のうち,遺留分を算定するための財産額(改正民法第1043条第1項)は,以下の方法で計算されます。
    
 →相続開始時のプラスの財産額
   +生前贈与された財産額
    -相続開始時のマイナスの財産額(相続債務)

(2)②遺留分の基礎となる財産額として考慮すべき生前贈与額の限定
   ②遺留分の基礎となる財産額として考慮すべき生前贈与額の限定に対応する改正民法の条文は次のとおりです。

第1044条 贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものについても,同様とする。
2 第900条の規定は,前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については,同項中「1年」とあるのは「10年」と,「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の額に限る。)」とする。

 改正前民法の下では,通常の生前贈与と異なり,相続人に対する生前贈与については,その時期を問わず,全て遺留分の基礎となる財産額として考慮されていました。
 今般の改正では,受贈者が遺留分権利者による権利行使を免れる目的で生前贈与を利用する事態を防止する観点からは,相続人に対する生前贈与についても一定の期間に限定が必要であるとの考えに基づき,相続人に対する生前贈与についても,相続が開始される前10年間に行われたものに限定して遺留分の基礎となる財産額として考慮されることとなりました(改正民法第1044条第3項)。

(3)③負担付贈与の規律
   ③負担付贈与の規律に対応する改正民法の条文は次のとおりです。

第1045条 負担付贈与がされた場合における第1043条第1項に規定する贈与した財産の価額は,その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

 改正前民法の下では,生前贈与された財産額を考慮する際に,負担付贈与をどのように取り扱うかで見解に争いがありました(贈与された財産の価額全部を算入するか,負担を控除した価額一部のみを算入するか)。
 今般の改正では,負担付贈与がされた場合には,贈与された財産の価額は,負担の価額を控除した額との規定が定められ,負担を控除した価額一部のみを算入するという取扱いが明確になりました(改正民法第1045条第1項)。

(4)④不相当な対価による有償行為に関する規律
   ④不相当な対価による有償行為に関する規律に対応する改正民法の条文は次のとおりです。

第1045条
2 不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

 改正前民法の下では,不相当な対価による有償行為(例えば,被相続人が一部の相続人に対して時価1億円の財産を500万円で譲渡した場合等)について,対価を控除した残額を②生前贈与された財産額とみなし,財産全額を減殺の対象としつつ,遺留分権利者に対価を償還させることとされていました。
 今般の改正では,遺留分権利者は,権利行使として,遺留分を侵害する受遺者や受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるという規定が新たに定められたため(改正民法第1046条第1項),全額を減殺の対象として対価を償還させる必要がなくなりました。
 そこで,今般の改正では,不相当な対価による有償行為については,一律に負担付贈与とみなすという取扱いが新たに採用されました。

2 遺留分侵害額の算定方法に関する見直し
(1)⑤遺留分侵害額の算定方法の明確化
   ⑤遺留分侵害額の算定方法の明確化に対応する改正民法の条文は次のとおりです。

(遺留分侵害額の請求)
第1046条 
2 遺留分侵害額は,第1412条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し,これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
 一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
 二 第900条から第902条まで,第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
 三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち,第899条のきていにより遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 改正民法は,遺留分侵害額の算定方法を以下の条文で整理しました。
    
  →遺留分
   -遺留分権利者の特別受益の額(改正民法第1046条第2項第1号)
   -遺留分権利者が相続したプラスの財産額(改正民法第1046条第2項第2号)
   +遺留分権利者が相続したマイナスの財産額(改正民法第1046条第2項第3号)

(2)⑥相続債務の取扱いに関する規律
   ⑥相続債務の取扱いに関する規律に対応する改正民法の条文は次のとおりです。

(受遺者又は受贈者の負担額)
第1047条 受遺者又は受贈者は,次の各号の定めるところに従い,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該価額から第1042条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として,遺留分侵害額を負担する。
  ① 受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。
  ② 受遺者が複数あるとき,又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
  ③ 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第904条,第1043条第2項及び第1045条の規定は,前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第1項の請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の額の限度において,遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において,当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は,消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担に帰する。

 改正前民法の下では,遺留分権利者が相続したマイナスの財産を算定するにあたって,受遺者や受贈者が遺留分権利者の相続債務を弁済した場合に,遺留分権利者に対する求償をしなければなりませんでした。
 今般の改正では,受遺者や受贈者が弁済等で消滅させた限度で,遺留分権利者が相続したマイナスの財産を消滅するとの規定が定められたため(改正民法第1047条第3項),上記のような求償の問題は生じなくなりました。

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